営業をやっていたころ、給料は自分の成績で決まるものだと思っていました。
その後、社内異動で経営企画に移り、グループ会社の事業計画を作る側になりました。そこで見え方が変わりました。
結論から書きます。給料の大部分は、本人の能力より前に、その人がどの数字の中にいるかで決まっています。
これは努力が無意味だという話ではありません。ただ、努力の効き方が場所によって違う、という話です。
現場にいたときは、削る側の話しか見えていなかった
営業の現場にいたとき、数字の話といえばいかに削るかでした。
営業と開発メンバーの稼働をどう抑えるか。調達費をどう下げるか。目の前にあるのは、常にそういう議論です。
売上は上から降りてきて、コストは自分たちで削る。数字との付き合い方はそれで完結していました。
計画を作る側に来て最初に変わったのは、販売費・管理費の見え方でした。
現場にいたときは意識したことがなかったのですが、会社の費用には「売上に直接ひもづくもの」と「そうでないもの」があります。そして後者のほうが、実は扱いが難しい。
管理部門のコストは、誰がどれだけ価値を出したかが構造的に見えにくいからです。
営業なら受注額があり、開発なら稼働がある。でも管理部門の仕事には、それに対応する数字が存在しないことが多い。
だから管理部門は、良くも悪くも「コストとして見られる側」に置かれます。価値を出していないという意味ではなく、価値が数字の形で表れにくい、という構造の話です。
この違いは、そこで働く人の待遇にも効いてきます。
同じ能力でも、部署によって単金が違う
もうひとつ、はっきりしていることがあります。
高付加価値・高クオリティのアウトプットを出せる部門は、単金が高い。
IT業界でいえば、いまならAI系やセキュリティ系がそれにあたります。同じ会社の中でも、部署によって顧客に請求できる単価が違う。
ここが重要なところで、単金の差は、そこにいる個人の能力差ほどには、本人の努力で動かせません。
その領域に対する需要が強く、できる人が足りていない。だから高く請求できる。これは市場の状態であって、本人が優秀かどうかとは別の話です。
もちろん、その領域で実際に成果を出すには相応の力が要ります。ただ、同じ力を持っていても、置かれている領域の単金が低ければ、そこから出せる給料には上限がある。
「もっと頑張れば給料が上がる」より先に、「自分がいる場所の単金はいくらか」を見たほうが早い、というのはそういう意味です。
落ちていく事業には、形がある
事業計画を毎年見ていると、この事業はこの先きつくなると感じる形があります。
分かりやすいのはこれです。
ローンチした直後は売上が立つ。でもそこから徐々に落ちていく。契約の更改のタイミングで少し盛り返すけれど、最初の水準には戻らない。
グラフにすると、右肩下がりのところどころに小さな山があるような形になります。
この形は、一度できあがると自力ではなかなか変わりません。売れ方の構造そのものがそうなっているからです。
ここで大事なのは、この形の事業にいても、日々の仕事はまったく普通だということです。忙しさも変わらないし、目の前の仕事は真面目にやっている。売上が落ちていることは、数字を見る立場でないと気づきにくい。
でも、その事業から出せる原資は年々細っていきます。
自分の給料がどの事業から出ているのか、そしてその事業がどういう形をしているのか。ここを一度も見ないまま10年過ごすことは、普通に起こります。
そのうえで、人の差はどこに出るか
ここまで「場所で決まる」という話を書いてきました。
では、同じ場所にいる人の間で差がつくのは何なのか。数字を見る立場から見ていて思うのは、意外と地味なところです。
自分の組織の目標、さらにその上位組織が何を考えているかを理解していること。
そして、上司にも同僚にも後輩にも、裏表なく接することができること。
この2つです。
1つ目は、言い換えると「自分の仕事が、もっと大きな数字のどこに効いているかを分かっている」ということです。これが分かっている人の提案は通りやすい。上が達成したいことの言葉で話せるからです。
2つ目は、能力の話ではなく態度の話ですが、長い目で見ると効きます。相手によって態度を変える人は、周囲から見て信用の置き方が定まりません。信用は、積み上がるまでに時間がかかるわりに、一度崩れると戻らない。
前に書いた記事で、社内異動について触れました。社内で職種を変えられたのは、何ができる人間かを周りがすでに知っていたからです。その「知られている」の中身は、成果だけではなく、この2つ目の部分でもあったと思っています。
求人票を見る前に確認すること
ここまで書いてきたことを、転職を考えている人の側から並べ直します。
① 自分の給料は、どの事業のどの数字から出ているか
売上に直接ひもづく側にいるのか、それとも価値が数字で表れにくい側にいるのか。どちらが偉いという話ではなく、評価のされ方が構造的に違うということです。
② その事業は、どういう形をしているか
ローンチ時がピークで、あとは更改のたびに少し戻るだけの形になっていないか。この形なら、そこから出せる原資は先細ります。
③ いまいる領域の単金は、高いほうか低いほうか
同じ会社の中でも部署によって違います。自分の努力で動かせる幅と、場所を変えることで動く幅を、分けて考える。
この3つを見たうえで求人票を見ると、年収欄の意味が変わります。その金額は、その会社のその事業から出せる金額であって、応募者の価値を測った数字ではないからです。
最後に
給料が場所で決まるという話は、聞いていて気持ちのいいものではないと思います。自分の努力が否定されているように聞こえるからです。
でも私は逆だと思っています。
努力が効きにくい場所で消耗しているのは、もったいない。
同じ力を出すなら、それが値段になる場所で出したほうがいい。そしてどこがその場所なのかは、事業の形を見れば、ある程度わかります。
自分の給料がどこから出ているのか。一度だけ、たどってみてほしいです。


コメント